子育て いじめ 不登校 ひきこもり 暴力 アルコール 薬物依存 拒食 過食症 リストカットなどの予防、解決を考える会。北海道内観療法懇話会 臨床内観療法研究会
 
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  子育て・いじめ・不登校・ひきこもり・暴力・アルコール・薬物依存・拒食・過食症・リストカットなどが社会問題となっています。これらの予防・解決に内観法、内観療法が有効であると考え、その予防・解決について考えます。

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内観療法と家族療法を組み合わせた
治療の有効性
札幌太田病院 臨床心理士
平山 崇

1.はじめに 
 患者の精神的疾患や問題行動は内観で軽減されるが、患者に対する家族の理解があれば、より大きな治療効果が期待できる。なぜなら患者は家族と影響を与えあって生きているからである。そこで太田病院では、患者の内観後に、家族との家族内観の時間を設け、心の交流をはかってもらっている。しかし患者の抱える問題の原因が家族全体にあるとき、家族内観だけでは不充分となる。家族全員が内観をして、家族内の交流パターンを変えてこそ、問題は解決するといえる。

 本症例は、不登校および家庭内暴力を呈する児童の治療のために、家族全員に内観を導入し、治療効果を得たケースである。

2.症例
症例:4人家族の長男のB君、小学校5年生
診断名:不登校、家庭内暴力
家族歴:結婚当初から夫婦仲は悪く、妻が夫に一方的に暴言を吐いたり暴力をふるっていた。妻はB君を産むとすぐ夫から離れ、子供と2人で暮らした。しかしやがて経済的に困り、嫌々ながら夫と同居することになった。妻は夫への憎しみとして、夫の稼いだ金を無駄に使ってやろうと考え、子供達に好きな食べ物をたくさん食べさせた。そのせいでB君も、その弟も肥満児となった。一方父親は家庭の中で影の薄い存在であり、子供が良い成績をとると欲しい物を買い与えていた。こうした中で、B君はH10年4月から徐々に物にあたる、暴力をふるう等の行為をとりはじめた。特に母、弟に対する暴力が多かった。H11年1月の冬休み明けから不登校になり、その頃より暴言、暴力が頻繁になり、不眠・不安感などの症状も出現した。家族に性器を見せたり、トイレ以外の場所で放尿したり、首に縄をまくなどの行為も見られた。母親は児童相談所や精神病院に相談したが解決は得られなかった。まもなく小学校低学年の次男も不登校となり、いよいよどうしようもなくなったとき、母親はインターネットで太田病院の内観療法を知り、来院するに至った。

3.集中内観の過程
 B君の問題行動は家族全員が関係していると判断され、この4人一家に入院してもらい、1週間の集中内観を受けて頂くことになった。B君は集中内観を受ける理由を、「家で暴力をふるい、学校へ行かなくなったから」と自覚していた。さて内観を開始して2日目に、B君は母にお世話になったことが思っていたよりも多くて驚いていた。しかしそれでも、こんなことをして何になるのか、早く終わりたいという思いは3日目まで続いていた。5、6日目になると家族に迷惑をかけてきたことを強く反省し、父と母に会って謝りたい気持ちを明らかにした。7日目は母に謝りたい気持ちがさらに強くなった。今までB君は自分から見た母を思い出すだけだったが、内観が深まるにつれ、母から見た自分を思い出すようになり、そうすることで母の気持ちも分かってきたと話した。8日目は、早く家族全員で平和な暮らしができることを祈っていると語った。

 内観後の『家族へのお礼とお詫び』というタイトルのレポートには、次のようなことが書かれていた。「今まで学校を休んでいたのは家の環境のせいと思っていたが、本当は自分の弱さにあることに気がついた。これからは気を強く持ち、両親への感謝の気持ちを持ち、新学期から登校する。弟には、父と母がケンカする度に暴力をふるっていた。八つ当たりをしていた自分の愚かさに気がついた。本当に悪いと思う。家族全員に謝りたい」

 一方、母親は内観の結果、家族に感謝の気持ちを持ち、子供にも夫にも優しくしたいと決意した。父親も同様だった。両者に共通するのは、自分たちのためにも子供達のためにも夫婦仲良くしたいと思ったこと。そして母親がリーダーシップを取り父親は弱い存在だった家族構造を変える必要に気がついていた。

4.家族内観の様子
 家族内観とは、内観者が素直になった今の気持ちを家族に伝え、今後の明るい展望を家族間で共有することを目的とする。家族内観は2回行われ、第1回目は家族個々の集中内観が終了した翌日である。家族が一室に集まったとき、母親は号泣し、子供達は笑顔をつくった。家族全員の表情が穏やかになった、と共通した感想を持った。

 自律訓練とボディーワークを行なった後、今の気持ちを1人ずつ話してもらった。

 父親:母さんとは仲良くするから、子供達は何も心配しないで、自分のやりたいことをして欲しい。

 母親:家族っていいものだなあ、と改めて感じた。

 長男:自分のことを思っていてくれていたことが分かり、モヤモヤしていたものがなくなった。

 次男:心が変わっちゃった。スッキリした。

 第2回目の家族内観は、それから4日後に行なわれた。家族に対しての感謝の気持ちを強め、これから平和な家族関係を作っていこうと、その決意を皆で語った。

5.退院後の経過
 一家が退院後、太田病院に1通の手紙が届いた。その内容は、夫婦仲はうまくいっており、子供も元気に登校している、ということだった。それから1ヵ月後、こちらから電話して一家の様子を伺ってみたところ、順調に明るい家族関係を築いているということである。

6.考察
 一般に家庭内暴力は、暴力の対象が家族に限定されていることから、親子関係や家族力動が重要な病理的要因となっていると考えられている。B君の家庭では、両親の関係は悪く、いつも母親が父親を暴言や暴力で攻撃していた。このような家庭環境で育った子供が困難な事態に直面すると、課題を適切に処理できず、病的な反応として暴力的手段を選ぶようになる。

 家庭内暴力児は神経過敏でわがままな性格傾向を持ち、自尊心が強い反面で身体や性格に関する劣等感が強く、柔軟性に乏しく、忍耐性が低いという特徴を持っている(稲村、1980)。この中でB君に特に当てはまると思われるのは、わがままであること、そして太っている自分の体に劣等感を持っていることである。また登校拒否に家庭内暴力が伴う児童の場合、物質的、金銭的欲望を統制する力がなく、衝動をコントロールする力が弱いことが指摘されている(青山、1979)。Bくんは好きなものはすぐに買い与えられ、お小遣いもたくさんもらっていた。これでは欲望を我慢する力は身につかず、よって衝動を容易に暴力に移すのも理解されよう。

 家庭内暴力児の両親像は、いずれも強迫的な性格傾向の持ち主であり、硬くて変化しにくい人格構造を有している。父親は仕事のため多忙で、家庭の中で存在感が薄い。一方母親は他者に依存的であるが、夫は不在なので、代理的に子供で依存心を満足させようとする。さてB君の父親は、休日にゴルフやパチンコに行き、家にいることが少なかった。また穏和で気弱なため、子供の心にも不在だった。これらの点は家庭内暴力児の父親像と共通している。一方母親は、次男に父親を攻撃するように命じていた。ここに歪んだ依存性が認められる。また子供達を清潔にさせるため、一日に何度も手洗いをさせるという強迫的な行動が見られる。この強迫性も家庭内暴力児の母親像と一致するところである。

 以上、B君の家庭内暴力の原因を究明した。ところで家庭内暴力事例の大半は登校拒否を伴うため、両者の要因は重なるところが大きく、よってこの症例では不登校の原因の解明を省略することとする。

 さてB君の問題行動は、家族1人ひとりのパーソナリティや問題のある夫婦関係、親子関係等から生じたと思われる。そこで家族全員に1週間の内観療法を実施して、家族の構造を変えるように介入した。内観の結果、皆が相互に反省と感謝の気持ちを抱き、さらに今後の家族における自分のあるべき姿を持つに至った。内観後の家族内観では皆で気持ちを伝え合い、相互理解をして、今後の明るい展望を共有した。それは夫婦、親子、兄弟の間で情緒的な交流を深めることを意味している。また父親が家族の中でリーダーシップを取り、母親もそれに協力すると語ったのは、家族の本来の適切な構造を取り戻すことになるので、家族の再構築が大いに期待された。

 本症例ではB君の問題行動の原因を家族全体に帰属させ、家族全員に内観療法を行った。内観療法は夫婦・親子・兄弟などの家族の関係を見直すものであり、家族全員が同時に内観した時、家族間の相互理解を深めることのできる優れた家族療法となる(笹野、1998)。

 本症例の一家が退院後もなお好ましい家族関係を維持しているのは、内観療法と家族療法を組み合わせた治療の有効性を示唆するものと言えるだろう。





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