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「奏効した不登校生に対する内観療法の一事例」
札幌太田病院 内観療法課
根元 忠典

1.はじめに 
 今回不登校生に対し、導入として2日間の身体内観を試みた後、7泊8日の集中内観を行い、内観最終日に家族内観を実施した。その結果不登校が改善され、生活態度も著しく変化した症例を経験したので報告する。


2.症例
 (1)事例:A君 16才(高校2年生)男性
      両親、妹、本人の4人家族

 (2)診断名:不登校・家庭内暴力

 (3)入院までの経過

 高校入学後アルバイトをはじめてから、夜遊びや外泊をするようになった。高校1年生の終り頃には、毎晩11時過ぎに帰宅するようになる。そのことを親に注意され、父に殴られてからはますます反抗的になり、全く言うことを聞かなくなった。父親とはほとんど話もしなくなる。両親がアルバイトを辞めるように言うと、「それなら家を出る」と反発した。それまではきちんと学校に通っており、比較的成績も良い方であったが、最近3ヶ月は学校を休んだり早退したりの繰り返しで「高校をやめる」と言い出すようになった。

 また、A君がサッカー部の練習中ボールが目に当たり、点眼を規則的にしなければならないのにしなかったり喫煙の問題もあった。心配した母が「これ以上、悪い方向に行く前になんとかしたい、生活のリズムを戻し落ち着いて欲しい」と願い、相談のために来院した。

3.集中内観の経過
 A君の母が相談のために来院したとき、主治医、外来婦長より当院の治療法について説明をした。その後内観療法の導入ビデオを観て頂き、家族全員で問題に取り組む必要性があることを伝えた。

 入院当日は母、父、A君の3人で来院した。A君にとっては納得していない入院だったため、医師や家族に対し暴言を吐いた。家族の「改善してもらいたい」という強い希望もあり、医師を初めとする看護者側が説得し、A君は急性期治療病棟(閉鎖病棟)に入院となった。

 まず、内観導入期間として、入院直後の2日間は自分の足、手、目に対して「してもらったこと」「して返したこと」「迷惑、心配かけたこと」(身体内観)を年代別に調べてもらい、午前2回、午後2回の、一日4、5回の面接を行った。この頃には入院に対してあきらめたのか、特に反抗的態度はみられず素直に取り組んでいる印象を受けた。

 2日目の夜に書いてもらった「身体に対する自分を調べて気付いたこと、わかったこと」のリポートには、「人の体は、何か一つでも足りないと大変な問題が起こるということがわかりました。もし耳がなければ何も聞こえないし、もし口がなければ食べ物を食べることすらできないのです。お母さんのお腹の中に約10ヵ月入っていましたが、お母さんが大切にしてくれたから今こうやって僕は丈夫で健康に生きていられるのだと思います。丈夫な体を授けてくれた両親に心から感謝したいと思います」と書かれている。

 内観療法に慣れてきた、入院3日目から正式な集中内観開始となる。集中内観初日、2日目は「母に対する自分」を調べて頂く。

 集中内観1日目 テーマ「母に対する自分 中学1年生」
 イ)「してもらったこと」
   ・サッカー道具を買ってくれたり、ユニホームを洗濯してくれた。
   ・給食費を払ってくれた。
 ロ)「して返したこと」
   ・風呂洗いをした。
   ・肩を揉んであげた。
 ハ)「迷惑・心配かけたこと」
   ・本当はサッカーの練習があったのに、母親には「今日は練習はない」とウソをつき友人と遊んだ。
   ・気に入らないことがあったとき、母の目の前で壁や冷蔵庫を叩いた。

 身体内観での導入期間が2日間あったためか、集中内観に入ったときは具体的な事実を簡潔に話すことができていた。

 集中内観3日目 テーマ「父に対する自分 中学3年生〜高校1年生」
 イ)「してもらったこと」
   ・一緒に魚釣り、キャッチボールなどをして遊んでくれた。
   ・高校に入学させてくれ、修学旅行にも行かせてくれた。
 ロ)「して返したこと」
   ・雪かきをした。
   ・仕事から帰ってきたとき肩を揉んであげた。
 ハ)「迷惑・心配かけたこと」
   ・自分が高校受験について悩んだ時期、色々と相談にのってくれたが素直に聞かず口答えをした。
   ・夜遅くまで友人の家で遊んだり、泊まったりした。そのことを父に注意されると反抗した。

 この日のリポート「父に対する自分を調べて気付いたこと・わかったこと」の中で「今まで僕は、父が何を言っても『うるさい』としか思っていませんでした。それは僕が『自分は絶対に正しい。間違っているのは父さんの方だ』と思っていたからです。今、ひとりになってよく考えてみると間違っていたのは僕の方だと気がつきました。家に帰ったら父に何かしてあげたいです」と書かれている。

 集中内観4日目、午後から5時間かけて「養育費の計算」をして頂いた。計算終了後、「親のすごさを改めて感じました。0歳から現在までの養育費を計算してみると、約2,700万円も僕ひとりにかかっていることがわかりました。とても気の遠くなるような数字です。今の僕にはただ、『ありがとう』としか言えません」と、恩愛体験を再認識している。

 集中内観5日目、「死のテーマ」(もし自分の母や父が死亡すると仮定したなら、あなたは何を考えどのように行動しますか?)を調べて頂いた。このテーマは、患者(特にうつ病や精神分裂病)の症状によってはうつ的になったり、ますます精神が混乱するなどの危険性が考えられるため、A君の精神状態を考慮した上で慎重に行った。このテーマの面接の中で、ほとんど話しをしなかった父親に対し、「もし父さんが死んでしまうなら、カレーライスを作ったり、お風呂で背中を流してあげたい。ここの病院に入院する前、初めて父さんを殴ってしまいました。申し訳なく思っています」と話されていた。

 集中内観6日目、最後に再度「母に対する自分」を調べて頂いた。この頃になると内省は深くなってきたためか、面接時、毎回のように涙を流す情動体験がみられた。

4.家族内観
 集中内観最終日、まとめのリポートを書いて頂いた後、内観婦長の担当で家族内観を行った。家族内観とは、一週間どんなことを調べ、どんなことに気付いたのかという報告と家族でボディー・ワークを行うことである。A君の家族内観には、父、母が参加した。

 T君は内観室で両親と対面した途端「ごめんなさい」と言って畳に頭をつけた。その様子をみた両親も泣きながらお互いに詫びた。

 家族内観ではまず、父、母、A君の3名で背中合わせに座ってもらい、家族との思い出の中で楽しかったことをそれぞれ話して頂いた。母親は「小さい頃、よく外で遊び泥んこになって帰ってきた。サッカーを熱心にやっていて、試合のとき家族で応援にいくのがとても楽しみだった」と答え、父親は「この子が生まれたとき、俺もオヤジになったんだなー、がんばらなきゃなーと思った。小学生になってからは、一緒に野球やサッカーをして遊ぶことが何よりの楽しみだった」と話した。A君は泣きじゃくっていてほとんど声にならなかった。

 また、ボディー・ワークの際、T君が父親と抱き合う姿も見られた。

5.その後と考察
 A君は、集中内観終了後の「入院してからの自分を振り返って」のリポートに「入院当初、正直言って両親を恨んでいました。けれども、自分をみつめることによって人の気持ちがわかるようになり、今までの行動は間違っていたということに気付きました。恨みが感謝に変わりました」と書かれていた。

 Aくんは入院時、入院に対し拒否的であり、「両親に騙された」という思いが強かった。そこで内観導入した際に、抵抗のある「親に対する自分」を調べるのではなく、自分の身体に対する行動を調べてもらい(身体内観)、自己への振り返りと与えられた恩恵に感謝する内観をして頂いた。その結果、集中内観初日から、過去の人間関係の中であった事実を具体的に想起されやすくなった。与えられた愛情の再体験、再認識することにより「親に対し誤った認知をしていた」ということに気付き、内観効果のひとつである自己を客観視することができたのだと考えられる。

 また、もう一つの奏効要因と考えられることは、家族全体が子供の「不登校」と言う問題に対し、真剣に向き合ったことではないだろうか。問題を抱える子供を持つ家庭では、その子供ばかりに目がいきがちで「家族全体で解決しなければならない」という認識に欠けていると感じられることは少なくない。家族は患者の症状や問題行動を改善することもあれば、増悪させることもある。この症例の場合、家族内観を行うことで「家族関係の歪みを修正する必要がある」ということに各々が気付き、家庭の中の母性や父性の役割を回復し、患者の問題行動も改善したのだと思われる。

 A君に、今後の目標について尋ねると「今の目標は高校を卒業するということです。これからは毎日学校に通います。勉強もきちんとします。…これから先、色々な苦難があると思うけれど、前向きに一歩一歩進みたいです」と答えていた。

 その後、運動療法、作業療法などに参加しながら当院から登校し、集中内観終了10日目に退院となった。現在、約4ヶ月経過するが、A君は無事に進級することができ、元気に登校している。

 病院職員が、内観者とその家族の健康な部分に働きかけ、各人本来の役割を取り戻すことができた症例であった。





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