内観療法、家族療法により過食・拒食症が改善した一例

医療法人耕仁会札幌太田病院 急性期治療病棟

小坂ひとみ 小田島早苗 小林順子 佐々木智城 太田健介

1.はじめに

摂食障害の患者数は、欧米では減少傾向である。しかし日本ではここ5年間程で35倍に増加しており、また遷延例(長引く例)が増加している。摂食障害は、心理的要因・社会的要因・生物学的要因が複雑に絡み合って生じ、摂食行動を主な表現形とする精神疾患である。特に心理的要因(ストレス)によることが多く、慢性経過をたどる傾向が強い。

当院では摂食対応マニュアルに基づき、十段階心理療法、病棟内内観療法、摂食障害認知行動療法など各種精神療法実践し、治療効果を高めている。今回、集中内観療法、家族内観療法などの治療により、病識獲得、親子関係修復、自信回復などが可能となった症例を報告する。

2.症例紹介

N氏、女性、30才代後半。診断名:神経性食欲不振(摂食障害)。

現病歴:X年、同僚の体型に対する指摘から拒食が出現。以後、過食嘔吐、拒食を繰り返し、低体重から内科の入退院を繰り返した。X+8年には無月経となり、体重が22kgまで減少した(身長156cm)。「治したいのに治せない」と訴え、倦怠感、体調不良があり、家族と共に治療を希望し、入院に至った。入院時の体重34.4s(BMI14.4)。

3.治療経過

入院時、食事は特食960kcalで開始。看護サービス・ステーションで摂取し、食事後30分はその場に居てもらい、自分が食べた物、食べた時の感想など食事日記の記入、一口3050回噛むなどの指導を通し、完食を促した。食べ方、食べる量を一方的に決定するのではなく、心身の状態を受容し、管理栄養士による栄養指導を行うなど、現状に即した支援を継続した。体重測定は1回/W。また、入院直後からゆったり内観療法(自室内で1日4〜5回の面接)を開始した。ゆったり内観により、今までの自分の不適切な食行動を振り返り、適切な食行動の形成、認識を目指した。

入院6日目から、「入院前、食べると腹痛を起こし、食べることが怖かったけど、今では食べることが楽しい」と笑顔が見られた。嘔吐・下剤乱用などの排出行為はみられず、食事は全量摂取出来るようになり、1400 kcalから徐々に増やし通常食となり、体重も41kgに増量した。

入院8日目、顔面、下肢に著明な浮腫が出現。今までの低蛋白血症状態による浮腫と診断された。「この顔を鏡で見ると悲しくなる」と感情失禁、気分の落ち込みあり。また初めての外出が延期になったことも重なり情緒不安定となり、一時抗うつ薬増量し、ゆったり

内観は休憩。心身状態、抑うつ症状を慎重に観察した。

入院20日目、顔面浮腫は軽減、精神状態も安定し、ゆったり内観を再開。終了時は(入院30日目)、今後の社会復帰への目標の言葉を語った。その後、父来院し、家族内観を実施。「家族には本当に今まで迷惑ばかりかけていた。一週間に2〜3回も腹痛を起こし、その度、病院へ連れて行ってもらい、背中を摩ってもらった。それにも関わらず、生きているのが辛くて死ぬことばかり考えて…」と気付きを述べた。テーマ「父に対する自分」では、自分が愛されていたことを再認識し、「父の許可が出るまで、あせらず治療したい」と話し、父との関係修復を認めた。 その後、十段階心理療法学習会、作業療法などの治療プログラムに意欲的に参加した。摂食障害の集団認知行動療法では、「少しでも、摂食障害の患者さんのお役に立てるなら…」と自身の体験談を積極的に発言した。体重は44sまで増量、維持し、入院から3ヶ月で退院となった。

4.考察

摂食障害では、回復希求と回復恐怖とが並存している。患者にとって、共に真実の心のありようである。従って、治療者には回復恐怖の内実を把握し、これを尊重しながら、慎重に回復の手助けをする「二重の工夫」が常に必要である。また患者のみならず、家族への援助も同時に行うことが重要である。福田は「家族には自分達も治療の対象であることを受け入れてもらうと、がぜん本人が勇気づけられ、今まで言えなかったことが言えるようになり、自己主張の力がついてくる。家族の方もしっかりと聴く耳をもち、今までとは違った強い親子の絆ができあがっていく」と述べている。

N氏は内観により、自分の誤った食行動の認識を反省し、社会復帰への目標を持つまでに回復した。治療中、低蛋白血症と電解質の不均衛による全身の浮腫が出現し、肥満恐怖と抑うつ症状が見られた。低体重に基づく内臓の変化、飢餓栄養失調状態からの急激な栄養の回復による浮腫について、医師、看護師、心理士などの医療職員による受容的支援と薬物療法により、まずN氏の不安が軽減された。

次に内観終了後の家族内観では、両親、周囲から「愛されていた」と恩恵体験を再認識し、家族間の絆の回復から情緒が安定した。更に摂食障害の集団認知行動療法により、認知の変化を強化し、再嘔吐、拒食は消失し、摂食障害は改善した。

5.まとめ

過食・拒食症の本人は非常に苦しみ、家族への告白に抵抗感がある患者が多い。本来、一番安心して相談できるはずの家族関係の危機である。今回、治療法の1つである家族内観が家族関係を修復し、治療効果を高めたと思われた。

今後も、患者、家族の気持ちを理解し、飢餓状態のために身体的問題、それに伴う精神的問題など、心身の両面からバランスのとれた治療、援助を行っていきたい。

 

引用・参考文献

「過食症と拒食症」:福田俊一、桝井昌美著、星和書店、2001.12.10.初版発行

「医療法人耕仁会学術研究論文集」:発行人、太田耕平、2006.11.30発行