不登校から薬物依存、自傷行為などに進展した大学生の症例

医療法人耕仁会札幌太田病院 内観療法課

    伊藤恵理 根本忠典 新妻弘恵 太田耕平

 

1.           はじめに

今回、薬物依存、自傷行為、自殺企図を呈した休学中の大学生に対し、記憶回想療法および家族療法を実践し、良好な経過を経た。若干の考察と経過を述べたい。

2.           症例紹介

A子。大学生。父、母、姉、兄、本人の5人家族。小学高学年時から中学2年時まで不登校となった。中学2年から再登校し、高校では友人に恵まれて無事に卒業した。その後、大学に進学したが、欠席が続き休学した。X年、某心療内科でうつ病と診断され、薬物治療を行ったが症状改善せず、多量服薬、自傷行為、自殺企図などの問題行動が出現した。父親に対する不潔恐怖から、父と同居している母親に対しても陰性感情があった。空虚感を紛らわすために薬物を使用し、摂取量は120錠まで増加した。本人、家族は、薬物療法に抵抗を示し、精神・心理療法を中心とした治療を希望し、当院受診、入院となった。

3.           治療経過

@    記憶回想療法経過

回想療法導入時は、多量服薬によるせん妄状態が顕著に現れ、入院に至る過程について記憶がない状態であった。入院2日目、職員に対して「いちいちうるさい。面倒くさい。そんなに偉いのか」などの暴言があった。入院3日目、臥床していることが多く、治療に拒否・抵抗を示す態度は依然として続いた。規則正しい生活、治療への専念などの目的から昼間は布団を撤去し、医師を始めとする医療職員が再三、インフォームド・コンセントを行った。次第に治療に協力的となり、入院8日目、記憶回想療法終了時には、「多量服薬をしたり、手首を切ったり、自分の体を大切にしていなかった」と反省を述べた。また「新年度から復学したい」と今後の意欲を語った。

A    家族療法

記憶回想療法終了後(入院15日目)、父、母、姉、兄が来院し家族療法を行った。父母は、「A子が苦しんでいる時に、何もしてあげられなくて申し訳なかった」と涙ながらに謝罪した。A子は、「私は辛いときに一人だと思っていたが、同じように辛く、苦しい思いをしている家族を感じることができた」と気づきを述べた。更に、「自分の心の内を話すことができたので、これからは素直に父とも話せるようになると思う」と、父に対する認知の修正を認めた。家族療法中、互いに反省、お詫びを述べ合うなどのコミュニケーションを通し、父に対する不潔恐怖が消失し、始めは拒否していた父と手を繋ぐなどのボディワークが実施できた。

B    退院後の経過

入院期間3ヶ月で退院し、一人暮らしをしながら、当院思春期デイケアに約2ヶ月通所した。現在、定期的な通院を継続し、大学に復学、登校している。

4.           考察

父は自営で多忙のため、A子との関係は幼少時から希薄だった。A子が小学高学年頃から、父の自営は益々多忙になり、家族に無関心となった。会話も少なくなり、A子は自分の気持ちを伝えられず、同様に友人に対しても自己表現困難となった。結果、それらのストレスから友人との関わりが不適応となり、不登校に至った。父子関係が背景因となり、友人関係に投影されたと考えられた。中学2年時に登校を再開し、不登校は改善されたように思われたが、依然として家族間の不仲、自他否定感などを未解決のままにしていたため、後に多量服薬、自傷行為などとして表面化されたと思われる。

記憶回想療法により、「問題行動を起こし、周囲の人に心配されることが、自分の存在価値があると錯覚していた」と内省し、更に、家族療法を通し、父の考え、気持ちを理解し、父子関係が改善された。これらA子の認知修正、家族調整が奏功し、良好な経過が得られたと考えられた。

本症例から、早期治療の大切さ、家族療法の重要性を学ぶことができた。A子、そのご家族に深く感謝し、今後幸福な人生を送ることを心から祈念申し上げたい。

 

〈参考・引用文献〉

1.                          太田耕平 幼児から高齢者までの心の発達十段階心理療法 第10版 医療法人耕仁会札幌太田病院 2007

2.                          中村伸一 家族療法研究 第24巻第3号 日本家族研究・家族療法学会