短日数で治癒しえた歩行障害を伴った不登校生徒

医療法人耕仁会札幌太田病院 3階病棟

○藤本朝海 小林順子 長浦千穂子 太田耕平

1. はじめに

アダルトチルドレンは、機能不全家庭で育ったことにより、成人してもなお内心的なトラウマをもっている人のことを指し、家庭で生き延びるために、様々な役割を背負ってしまっていると言われています。今回、アダルトチルドレンの役割であるスケープゴートとして、身体化障害(歩行障害)を呈した症例に対して、内観療法を通して対象に父性的な関わりをおこなった。この症例を通して、内観療法及び父親としての関わりが、身体化障害の根底にある機能不全家庭で受けたトラウマの改善に、有効であったと考え、考察したので報告する。

 

2.症例紹介

S氏(10代前半女性)。身体化障害(心因性の歩行障害)、不登校。受診時は母と2人暮しであった。父はアルコール・暴力の問題あり、同居、別居を繰り返しており、S氏は「私なんていなくてもいいよね、でも父に会わないで死ぬのは嫌」など話しており、また母も八つ当たりのように感情的に叱ることがあるなど、機能不全家庭の様相を呈していた。

 

3.入院までの経過

当院受診2年前より、自傷行為が出現し、同3ヵ月前より突然身体に力が入らず、歩行障害となった。小児科・脳外科受診するも異常は見られず、他精神科受診によりヒステリーの診断を受けるが、改善見られず、また不登校状態でもあり、当院を受診となった。入院時、母親に付き添われ、車椅子にて移動。車椅子からベッドなどへの移動は自力で行えており、食事、トイレも自力にて可能な状態であった。

 

4.治療・看護の経過

入院翌日より母子共に集中内観を導入した。状態を考慮し、作業療法など他のプログラムを併用した。また歩行訓練のため可能な限り車椅子を使用せず自室では腹ばいでの移動を促した。一方で母子分離および自立のために、段階的な環境調整(母子同室⇒別室)を行なった。入院4日目より、積極的な歩行訓練を開始し、車椅子から歩行器へと変更をした。S氏は困惑し泣くこともあったが、自立歩行を促すため厳しく父性的に指導した。6日目には、10m程度の自力歩行が可能となった。入院6日目、内観療法を継続しながら小弓

道療法に参加した。参加時、5分程度の立位保持ができるようになり、歩行障害の改善が認められ、歩行器使用から自力歩行へと移行できた。そして7日目には自力歩行による登校を開始している。一方、家族関係を調整するため、父にも内観を勧め、家族内観も行なった。S氏の心情を理解することができたようであった。

 

5.考察

父親はアルコールの問題があり、母親とのトラブルが絶えなかった。そうした機能不全家庭のため、S氏は、心理的な歩行障害という役割を負うことで、家庭の崩壊を防ごうとしたと考えられる。この機能不全家庭の根底にある共依存の問題解決が必要であると考えた。共依存の治療プロセスは第一段階として「否認」を解く、第二段階に否認していた感情を表現する。第三段階に理想化していた親の親代わりになって支えてくれる人を捜すと言われている。S氏は内観療法によって、自己を肯定的に捉え直し、嫌だったこと(父のアルコール問題、母の八つ当たり)を表出することができた。これは共依存の治療プロセス第一段階、第二段階に合致するものと考えられた。また父母にも内観療法を通した内省を促すことで、S氏の問題を家庭機能の問題として捉える契機とすることもできた。第三段階の親の代理者を探すことにおいては、父性的な厳しい指導が、本来父親から受ける愛情やしつけの代理行為となり、自分が自分を育む「自立」への援助となったのではと考えられる。また、S氏が歩行可能になったこと、そして登校再開について評価し、認めることで、自己肯定感を高め、S氏のアダルトチルドレンによる障害からの脱却、歩行障害の改善に繋がったと考えられる。

 

6.おわりに

児童・思春期症例は、その不適応の背景に家庭環境が影響する場合が多い。機能不全家庭とその根底の共依存の問題はその代表的なものである。その共依存からの回復に、内観療法及び父性的な関わりは有効であり、また早期の解決が望まれる。

 

<参考文献>

     太田耕平 幼児から高齢者までの心の発達「十段階心理療法」、第10版、医療法人耕人会札幌太田病院 2005.

     ケイ・マリー・ポーターフィールド(水澤都加佐 監訳) 「共依存かもしれない」 大月書店 2006

     緒方明 「アダルトチルドレンと共依存」 誠信書房